非常にはっきりとわからない
私は芸術というものがわからないので、これからここに書かれるのは感想とか考察とかそんな大したものではなく、私の中で実際に起こったことです。
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美術館に到着したのが午後2時。
最後尾には90分待ちの文字列。
海の生き物の本*2を読みながら並んで1時間。
1階チケット売り場のロビーに到着しました。
千葉市美術館は絶賛工事中*3で、透明なシートが張り巡らされていたり手袋がそこら中に落ちてたり梱包材が散乱していたりという有様、とても展覧会を行えるような状態ではありません。
…が、明らかに様子がおかしく、この乱雑な状態からすでに展覧会が始まっているような雰囲気です。
↑なんだかひょっとして、私って芸術を理解してる人っぽい?
で、チケットを購入してエレベータで7階会場へ。
展覧会のスタートです。
やはりここも絶賛工事中という感じで、いろいろなものが落ちています。
元々"視界の中から特徴的なモノを探す"ことが好きな私にとって、ここは格好の遊び場でした。
特に手袋を探すのが好きなんですけど、7階には本当にたくさんの手袋が落ちていて…
エレベータを降りてすぐ、木箱の下に挟まっている赤い作業用手袋を見つけました。
バケツに引っ掛けられている紫色の使い捨て手袋、ポイッとされている青色の使い捨て手袋、手首のところをクルッとしてまとめられている作業用手袋、ちょっといいものを触るときに使う綿の手袋、重い荷物を運ぶときに使ったであろう軍手、使い捨て手袋の切られた指先部分…
もちろん展覧会ですから、芸術作品も展示されていました。
それこそ現代芸術という感じで、「なんかいい感じ!」とは思うけども、何を表現したどういうものなのかは私にはわかりません。
そのなかでも私が気になったのは、天井から"無数の小さな時計"がぶら下げられている空間。
他のものと比べるとわかりやすい面白さがあって、多くの人は一番気になったんじゃないかなと想像しますが…
食い入るように見ていると、どうやら動いている時計と動ていない時計があるらしいことがわかりました。
さらによく見ると、そのなかにひとつだけ「針が左右に振れていて、動いてはいるけど時間の進まない時計」があることに気が付きます。
この時計をなんだか気に入ってしまって、飽きるまでずっとその時計を眺めていました…
と、いうのが7階での出来事。
この乱雑な感じと現代っぽい芸術作品を見て「このあえてキレイにしないで"搬入したときの状態"とか"作業をしたときの状態"とかを維持していること自体がインスタレーションなのかしら…」なんて考えながら8階へ。
エレベータを降りて左に。
えー!さっき*4と同じ場所に「重い荷物を運ぶときに使ったであろう軍手」がある!珍しい!
と、思ったんですが…
さっき軍手の近くにあった「ちょっといいものを触るときに使う綿の手袋」も同じところにある、しかも綿の手袋の横に貼られている透明な養生テープに書かれている数字が同じ…?
ここで真っ先に探しに行ったのが「木箱の下に挟まっている赤い作業用手袋」でした。
やっぱり同じ場所にある…
あまりの事態に、唐突に吐き気がこみあげて目頭が熱くなるのがわかります。
吐きそうになりながらも確認作業をやめることはできませんでした。
同じバケツに「紫色の使い捨て手袋」が引っ掛けられている。
同じところに「青色の使い捨て手袋」がポイッとされている。
同じ棚に「手首のところをクルッとしてまとめられている作業用手袋」が置かれている。
同じところに「使い捨て手袋の切られた指先部分」が捨てられている。
私も7階で手袋だけを見ていたわけではないので、他にも本当にたくさん…
あの使い捨てのスリッパも同じ場所に落ちてる。
あの床の汚れも同じ場所にある。
あの台車も、あのガムテープも、あのケーブルも、あの掃除機も、あのグラインダーも…
あの時間の進まない時計も、やっぱり同じ場所で針を左右に動かしていました。
ここらへんで吐き気が上のほうまで来ていたので「これは一刻も早く帰らなければ」と思いつつ、我慢できなくてまた7階へ…
いわゆる"答え合わせ"的なやつです。
やっぱりアレはここにあった、アレもここにあった、アレもここに、アレも、アレも、アレも、アレも、アレも…
自分が今、7階にいるのか8階にいるのかわからなくなってきました。
でもここで当たり前のことに気づきます。
「よく見たら7階と8階でちょっと違うな…?」
あの手袋のシワがちょっと違う、あの袋の向きがちょっと違う、アレも、アレも…
7階と8階の境界が曖昧になりかけていたところで、「7階と8階が物理的に異なる空間にあって物理的に異なるモノで構成されている」ことが、突然、明確にわかりました。
なぜこんなにも当たり前のことが全くわからなくなって、突然わかるようになるんでしょうか?
私にはわかりません。
そういうわけで体調を崩した私は、会場の外でしばらくうずくまることに。
逆にアレで体調崩さない人っているんですかね?くらいの気持ちです。
今も泣きそうになりながら文字を打ち込んでいます。
私のように突然ガンッと気付く人もいれば、じわじわと気付いていく人もいたのかしら…じわじわと気付くのってどんな気分だったんだろう…